2014年4月8日火曜日

孤立しない、孤立させないために



NPO法人エスビューローでは、平成25年度のWAM助成事業「小児がんAYA世代の孤立うつ防止対策事業」の報告書の一環として、ハンドブック~孤立しない孤立させないために~を作りました(A5版134ページ)。その序文を以下に掲載させていただきます。
 
はじめに
 
平成25年度の事業では、小児がん経験者の孤立うつ防止のために当事者同士が集い悩みを共有できる場を確保することを目的として、互いにつながり悩みを分かち合える場を、リアルとネット上、そしてイベント的と草の根的な手法の両方で用意することができました。しかしながら、孤立うつ防止に役立つ当事者のコミュニティが本当に促進されたのか、という点ではやや疑問が残ったと感じています。

小児がん経験者のコミュニティを促進することで孤立を防止するという戦略については、一定の効果が見られるものの、限界があることも実感されつつあります。小児がんといっても、白血病では、外見上経験者であることはほぼ分かりませんが、脳腫瘍の場合、外見上経験者であることが分かることが多い、といった疾患の違いによる課題の違いが存在します。また、白血病でも移植経験者(低身長、2次性徴阻害)と、そこまで重症でなかった経験者の課題は大きく異なりますし、脳腫瘍の場合も晩期合併症の程度が深刻(高次脳機能障害がみられる)な者と、そうでない経験者の課題も大きく異なるといえます。
 
進学や就職、異性問題などの課題に踏み込む場合、どうしても一律に語れないことから、関係性が深まって行かないという限界が存在しているようです。こうしたことから、家族をはじめとして周りの関係者が、彼らに安心感を与え孤立させない接し方を学ぶことの意義は大きいと感じられます。
 
今年度の事業で、この接し方のスキルを学んだゲートキーパー講習が実を結んでいくことを願っております。「ゲートキーパーの役割」については講習の講師を務めていただいた大阪彩都心理センターの竹田伸子先生に執筆をお願いし、このハンドブックの第6章に入れさせていただきました。仲間のコミュニティという当事者同士の関係性と、周囲の人が彼らを見守るという関係性が、相互補完的に機能していくことが望まれます。
 
一方、個々の小児がん経験者の内面にスポットを当てますと、彼らが成長するにつれて、いやおうなく抱えることになる苦悩に関して、そのこととどう関わりながら、意義ある人生へと進んでいけばよいのか、というテーマが厳然として存在しています。今回のハンドブックでは、そのヒントになるのではないかと考えられる心理学的、あるいは哲学的なアプローチをいくつか取り上げて示しました。今後はこうしたものがもっとよりよく吟味され淘汰されて、当事者間で少しずつ共有されていくならば、そこに光明を見いだせるのではないかと思います。
 
第1章では、NHKの病の起源シリーズで特集された第3弾うつ病の内容を取り上げました。今年度の事業のテーマが「孤立うつ防止」であるため、そもそもうつ病とは?という点を押さえておくのに大変わかりやすく、また進化の観点から説明してあることで興味深かったからです。車座トークの東京でもこの「病の起源うつ病」を見て、討議の時間をもちました。
 
第2章では関係フレーム理論をベースに人間が備えた記憶やことばという能力がどのように苦悩の増幅へと波及してしまうのかを示しました。第1章をさらに掘り下げた内容となっています。堅くて難しいように聞こえるかもしれませんがユーモアたっぷりの表現もあって楽しんで読んでいただけます。
 
第3章は6つの節から構成されるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を取り上げました。エスビューローでは相談を受ける場合の指針となる考え方の一つとしてこのACTを位置づけています。ちょっと長いですが、エクササイズをたくさん引用し、イメージしやすく取りまとめました。イラストの多くは安道涼菜さんの手描きです。
 
第4章では、神谷美恵子さんの「生きがいについて」を取り上げました。現在エスビューローでは喪失家族を対象としたロスカレッジの読書会のテキストとしてこの著書を使用していますが、大変示唆に富む内容で、ACTやフランクルとも共通項が多いと思われます。
 
第5章はヴィクトール・フランクルに触れてみました。「生きる意味が分からない」という小児がん経験者の実存的な問いに対してひとつの答えが示されていると思ったからです。2014年の小児がん脳腫瘍全国大会では「フランクルに学ぶ」をひとつのキーワードとして掲げる予定です。
 
第6章は前述したように竹田伸子先生によるゲートキーパーの役割です。
 
そして第7章は本ハンドブックの付録としての位置づけでバイオセラピーを取り上げました。姉妹団体であるエスユースの活動を理解する一助にしていただければと思います。

このハンドブックは、独立行政法人福祉医療機構による助成事業の事業報告書のハンドブック編として作成しております。ハンドブック編は、活動報告編と対をなすもので、活動が行われた背景となる理論や考え方をまとめたものだとご理解ください。
 
また、エスビューロースタッフは、折に触れ、このハンドブックを参照し、当事者や家族にどういう考え方で接していったらよいかの指針として活用するものです。そうした意味では、なかなか読み物としては十分ではなく、荒削りで説明不足、言葉足らずの表現が散見されることと思われます。しかしながら、ピンとくる言葉や共感できる表現も含まれているはずです。どうかそうした側面に目を向けていただいて、そばにおいていただけたら幸いです。

どなたかの、そしてなにかのヒントのひとつになりますように。




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