2013年4月26日金曜日

エスビューロー小児がん喪失ガイドブック

2012年度事業で進めていた「小児がん喪失ガイドブック」(p111)がこのほど完成しました!
 
「本ガイドブックの概要と目次」を以下に抜粋します。
説明を追加

 本ガイドブックは4つの章から構成されています。
 

1章「私たち小児がん喪失家族の心のありよう」では、安道と安井が過去の喪失体験をふり返り、「葬儀・供養のこと」「病院・医療従事者のこと」「ご近所や親戚、学校のこと」、そして「自分のこと」として取りまとめました。

 当時の私たちのさまざまな心の葛藤を読みとっていただけると思います。


2章「私たち小児がん喪失家族のいま」では、わが子の生きた証を残そうとしている人、医療や小児がんに関わりながら生きようとしている人、そして喪失コミュニティを作ろうとしている人たちを取り上げました。

 私たちエスビューローも小児がんに関わりながら喪失のコミュニティを作ろうとしている団体そのものです。

 短かったわが子の人生とは何であったのかという意味を問うなかで、喪失後に大きく人生が変わる人も少なくありません。

私たちをはじめ何人かの実際の例を紹介させていただきました。
 
 
そして3章は「葬儀・法要・納骨のQ&Aとしました。

 これは当団体で平成248月に開催したロス・カレッジ2DAYセミナーがベースになっています。喪失家族である参加者から出された「葬儀・法要についての質問」「納骨・お墓についての疑問」「さまざまな思い(2DAYセミナー1日目の感想より)」に対して、講師である碑文谷創(ひもんや はじめ)さんが答える形式をとっています。

 葬送ジャーナリストの肩書をもつ碑文谷さんは葬儀の評論家として著名な方です。

 慣習的な葬儀にまつわるさまざまな「しきたり」の由来や元々の意味などを教えていただいたことで、「形式にとらわれなくてよいと分かり気が楽になった」という参加者の声が多く聞かれました。

その問答の抜粋です。
 
 
4章「新しい価値体系への変革」は本ガイドブックのまとめです。

 わたしたちがこのブックを通じてお伝えしたいことは、「新しい価値観をもちましょう」ということです。それは「従来の価値観ではもはや生きてゆけない」からです。

 そのことを皇后美智子様の相談役でもあった神谷美恵子(かみや みえこ)さんが名著「生きがいについて」の中で語っておられます。

 神谷さんは戦時中の東大医学部精神科を支えた3人のうちのひとりといわれ、岡山県のハンセン病患者施設で精神科医にも就かれていました。

 古今東西の苦悩と生きがいの研究をベースにしたこの著書に学びましょう、という呼びかけをし、最後をまとめております。
 
 
 このガイドブックは、読むだけで役に立つようには書かれていません。

当事者である喪失の方々を対象とした勉強会やワークショップの副読本として、言葉で内容を補いながら、ともに考え意見交換をしつつ利用していただきたいと思っております。

 
 




2013年2月17日日曜日

どのような価値体系に変革するのか?

9月8日にこのブログに書いた「新しい価値体系への変革を促す」の続編です。

前のブログに登場したパールバックがそうであったように、小児がんで子どもを亡くした親たちも、その何割かの人たちは「新しい価値観」へと導かれて行くように思われます。

彼女のいうように「世間の性急で皮相な価値判断を完全にそのまま受け入れるならば、まったく立つ瀬がなくなるわけである」からです。

関心のある話題や不安な事柄といった断片的で些細な価値観の変化から、人生観や生きる意味はなにかといった実存的な問いや人としての根源的な価値観まで、人によって様々なレベルで変化がみられるように思われます。

後者のような変化を神谷美恵子さんに習ってここでは「価値体系の変革」と呼んでいます。

それでは望ましい価値体系の変革とは、一体どのような変化のことをいうのでしょうか?
 
ACT※(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の知見と組み合わせることで、私なりに以下のようにまとめてみました。
 

1.自分にとって大切なものの変化

一般の人が関心をもつものに関心をもてなくなります。それが「価値あること」、「意味のあること」だとはどうしても思えなくなるのです。そしてそのような形あるものよりは、もっと精神的なものに価値を見出しはじめます。神谷美恵子さんのいう「精神化」です。

世俗的成功、物質的豊かさ、家庭の幸せ等を追い求めることが色褪せてしまいます。言葉にできないもの、精神的なものに充足と安らぎあることを知り、人生が自分に与えた使命感に価値を見出すようになります。

 

2.言葉や思考と苦悩の関係に対する気づき

「考える」ことによって問題は解決できると信じていましたが、心の中のおしゃべりがむしろ自分を苦しめていることに気づくようになります。しかしそれを無理に停止させることはできず、コントロールすることも難しいことを知ります。苦痛という一次的な問題を回避しようとして、さらなる苦悩に拡大していく悪循環のプロセスを理解しはじめます。言葉や思考の限界を知ることが大切であることに気づきはじめます。

 

3.感情に対する姿勢の変化

悲しみ、不安、そして怖れといった感情を、ひとつの対象として見ることに慣れてきます。いま、自分がどのような感情を抱いているか、どんな感覚を感じているかの自覚が高まってきます。それから逃げたり、無理に抑えつけたりするのではなく、無理なくそれらと共にいることが、だんだんとできるようになります。

 

4.価値観の相対化

このような理不尽さを経験しますと、強い無常感を抱くようになります。形あるものはやがて崩れ、絶対なものなど何もないと分かります。当たり前であると考えていた価値観が、たんに多くの人々が慣習的に採用していたにすぎず、時代や社会によって容易に変化するもの、相対的なものにすぎないことに気づきはじめます。周囲のそのような習俗的な価値観によって非難されることがあっても、上手に受け流せるようになります。

 

5.自分というものに対する認識の変化

形あるものは必ず移り変りゆくもの、すなわち無常であり、自分もまたそうであると認識します。思考や感情を対象化することが定着するにつれて、それまで思っていた自分が、本当はそんな固定したものではない、自分で自分のことをそう思っているだけ、すなわちそれは概念としての自己にすぎないことに気づきはじめます。そして、自分とはいったい何なのか?ということをあらためて問うことになります。

 

6.人生に対する見方の変化

あたかもひとつの物語が展開しているように人生を感じる瞬間があります。人生とは努力して切り開くものだという考えは、理不尽さの経験によって消し去られました。自分が努力して人生の目標に到達するというより、人生が自分を運んでいくのであり、人生が自分に期待している何らかの意味があるように感じます。そうした中で新たな「生きがい」や「使命」と呼べるものを見出す人もいます。
 
 
 
※ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは、
 
認知行動療法の一種ですが、関係フレーム理論、実存心理学、仏教心理学などが統合されたセラピーの体系であるといえます。「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)をはじめる」(スティーブン・C・ヘイズ、スペンサー・スミス 著、星和書房)より、ACTの簡潔な説明を以下に引用しておきます。
 
 アクセプタンス&コミットメント・セラピーは、最新の科学的な心理療法です。新次元の認知行動療法とも言われ、急速に世界中で広まっています。今までの心理療法が、人間の苦悩を変化させようとしたり、除去しようとして、どれだけ成功したでしょうか。ACTにおいては、私たちはなぜ悩むのか、精神的に健康であるということは何なのか、ということに新たな見方を提供します。苦悩は、避けられないもので誰にでもあるものです。苦悩を避けようとかコントロールしようとすることが、さらなる苦悩の原因となり、問題を長びかせ、生活の質を破壊します。ACTは、苦悩のように個人のコントロール出来ないものをアクセプト(受け容れ)し、自分の求める生き方を自覚し、生活を豊かにする方法を提供します。