私たちは、『ネットでeクラス』という遠隔集合学習システムを活用して、入院中および退院後の小児がん経験者の学習を支援する活動を3年間実施してきたが、学習塾などとちがってNPO法人がこのような学習支援を行うことの意味は、それが総合的な復学支援のプログラムの一環として行われているということだ。
「復学」は過酷な入院治療を終えた子どもたちにとっての社会復帰である。そうした人生の大事な局面における支援は、単に勉強を教えるだけではなく、医療面、心理面、人間関係的側面、社会制度的側面という四つの領域すべてにおいて必要な配慮と支援が提供されなければならない。
■医療と関連した復学支援
エスビューローの「病弱支援チューター」(現在5名在籍している講師役の学習支援スタッフをこう呼ぶ)は、病弱教育支援冊子『病気の子どもの理解のために-白血病-』『病気の子どもの理解のために-脳腫瘍-』をテキストにした研修を受けている。
また『学校で知っておいてほしい小児がんの基礎知識』というDVDがあり貸出すこともできる。これは平成19年に東京と大阪で開催した復学支援セミナーの講座から制作したもので、復学の際に地元校の教員の方々に是非知っておいてほしい事柄に関する専門医からのメッセージだ。
入院したとき、復学するとき、復学した後(進級、進学を含む)というそれぞれの局面で、生徒の心理は大きく揺れ動く。エスビューローでは医療に関連した相談だけでなく学校や学習にまつわる親御さんからの相談も受けている。
昨年の夏の全国大会ではPTG(ポスト・トラウマティック・グロース:心的外傷後の精神的な成長)のセミナー(講師:長崎ウェスレヤン大学、開浩一先生)を開催、サマースクールの一環として中学生以上の経験者も参加して学んだ。4人の当事者が「闘病体験がむしろ自分自身の成長につながった面がある」という感想文を残してくれている。
本年の全国大会においても尾形明子氏(広島大学教育学部講師)や山梨大学教授の谷口明子氏の講座を公開講座としたところ100名以上が参加し、小児がん患児・者の心理的課題とその対応についてともに学んだところである。
このような講座のDVDについても患者家族からの申し出があれば、無償で貸し出すことが可能である。
現在、大阪市立総合医療センター7階すみれ病棟の「ゴールド・リボンe学習室」、日本大学附属板橋病院の「ゴールド・リボン学習室」、そして築地の国立がんセンター中央病院の「いるか分教室」の3か所にテレビ会議システムを利用した「ネットでeクラス」がつながっている。入院している高校生や院内学級の補習を希望する生徒等による利用が始まったところだ。
エスビューローの事務所に待機している病弱支援チューターとパソコンの画面でつながって個別学習指導を受けられるほか、自分の都合のよい時間に動画学習教材を見て自学自習すること(eラーニング)ができる。
上記のような復学にまつわる医療、心理社会的支援に加えて、私たちが重きをおいているのが「コミュニティや人間関係の支援」だ。患者会などの自助グループによるこうした支援はこれまで社会的支援の一環と見なされてきたが、エスビューローでは社会的支援を(集合の)内面領域と外面領域に分けて分類している。それはその内面領域にあたるこの象限が極めて重要であるとの認識からきている。
エスビューローのミッションを表わすスローガンは「コミュニケーション&コミュニティ」である。「患者側と医師側の相互理解を促進し、双方の精神的負担の軽減を図ること」および「患児家族のQOLの向上」という経営目的のために欠かせないものが「コミュニケーション」と「コミュニティ」なのだ。
そのため『ネットでeクラス』でも隔週の日曜日に開催されるWebホームルームに力を注いでいる。これが大きな特長だ。そのホームルームを通じて大会で知り合った仲間同士が、その後も次第に絆を育んでいくことができる。東京や愛知の仲間ともテレビ会議の画面で出会えるのだ。
サマースクールとWebホームルームは、相互に補完し合う「小児がん経験者コミュニティ」なのだ。
今後はオフ会を活溌化し、学校の部活のようにグループ活動、サークル活動を多様化していきたい。「ネットでeクラス」を活用して、遠距離の仲間も参加できるようにしていければ、こんな楽しいことはないだろう。
以上が、エスビューローの「総合的な復学支援プログラム」の全体像である。
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